近年、スマート農業の旗手として大きな注目を集めているのが「ドローン」です。かつては高価で操作が難しいイメージがありましたが、現在は操作性も向上し、多くの農家で導入が進んでいます。本記事では、ドローンを農業で活用する具体的なシーンや導入のメリット、そして始める前に知っておきたい法律の知識を解説します。
現場で大活躍!農業用ドローンの具体的な活用シーン
ドローンと聞くと「空から写真を撮るもの」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、農業の現場では「空飛ぶ多機能ロボット」として、すでに多くの役割を担っています。ここでは、現在主流となっている3つの活用事例を見ていきましょう。薬剤・肥料の散布や種まき
農業におけるドローンのもっとも代表的な活用例が、農薬や肥料の散布です。かつては大きなプロペラを持つ「産業用無人ヘリコプター」が主役でしたが、機体が非常に大きく、価格も1,000万円を超えるなど個人農家にはハードルが高いものでした。これに対しドローンは、小型ながらも力強い飛行が可能です。最近ではバッテリー性能が飛躍的に向上したため、ずっしりと重い肥料を積んだり、稲の種を直接田んぼにまく「播種(はしゅ)」作業まで行えるようになりました。狭い土地や、機械が入りにくい変形した田畑でも、ドローンならスイスイと移動して均一に散布できるのが強みです。
圃場センシングによる生育管理
「圃場(ほじょう)センシング」という言葉は少し難しく聞こえるかもしれませんが、簡単にいえば「空からの健康診断」です。ドローンに特殊なカメラを搭載して上空から撮影することで、農作物の育ち具合や、病害虫が発生している場所をデータとして可視化できます。これまでは農家の方が毎日広い田畑を歩き回り、自分の目でチェックしていましたが、ドローンを使えば数分程度の飛行で全体の状況を把握できます。葉の色が悪い場所だけを特定してピンポイントで肥料を与えたり、病気を早期発見して被害を最小限に食い止めたりと、データに基づいた効率的な農業が可能になるのです。
重い荷物を運ぶ農産物や資材の運搬
農業は「運搬」の連続です。収穫したばかりの重い野菜や果物、あるいは大量の肥料や空の段ボール箱など、これらを運ぶ作業は足腰に大きな負担をかけます。そこで期待されているのが、ドローンによる運搬です。現在、多くの地域で実証実験が行われており、山間部の果樹園から麓の集荷場までドローンで荷物を運ぶといった試みが進んでいます。トラックが通れないような細い道や段差がある場所でも、空路なら関係ありません。将来的には、ボタンひとつで収穫物を自動で運んでくれる未来がすぐそこまで来ています。
農家に嬉しい4つのメリット!ドローンがもたらす劇的な変化
ドローンを導入することで、具体的にどのような「いいこと」があるのでしょうか。ここでは、実際に導入した農家の方々が実感している4つの大きなメリットについて解説します。これを知れば、なぜ今これほどまでにドローンが普及しているのかが納得できるはずです。産業ヘリに比べて圧倒的に軽くてコンパクト
一番のメリットは、その「扱いやすさ」です。従来の無人ヘリコプターは機体重量が80kg以上もあり、移動させるだけでも大人2人がかりの重労働でした。また、軽トラックに乗せるのも一苦労です。一方、最新の農業用ドローンは、薬剤を除いた機体重量が10kgを切るものも珍しくありません。コンパクトに折りたためるタイプも多く、1人でも楽に車に積み込み、現場まで運ぶことができます。また、電動式なのでエンジン式のヘリに比べて音が静かなのも嬉しいポイントです。早朝の作業でも近隣への騒音を気にすることなく作業が進められます。
作業スピードが上がり、効率が格段にアップする
人力での防除作業(農薬散布)は、重いタンクを背負って泥に足を取られながら進む、非常に過酷な仕事です。1ヘクタールの広さを散布するのに、手作業では数時間かかることも珍しくありません。しかし、ドローンを使えば同じ面積をわずか10分程度で終えることができます。時速15kmほどで安定して飛行し、幅4メートル以上にわたって均一に散布してくれるため、ムラも少なくなります。空いた時間を他の農作業などに充てることができるため、経営全体の生産性を大きく引き上げることが可能です。
自分の好きなタイミングでいつでも散布できる
農家にとって「散布のタイミング」は死活問題です。これまでは地域の防除組合や業者に散布を依頼することが一般的でしたが、そうすると「来週の火曜日に来ます」といった具合にスケジュールが決まってしまいます。しかし、害虫は予定を待ってくれません。また、雨が降れば業者の予定がずれ込み、最適な時期を逃してしまうこともありました。自前でドローンを持っていれば「天気がいいから今からやろう」といった柔軟な対応が可能です。病害虫の被害が出る前に、最も効果的なタイミングでピンポイントに対処できるのは、作物の品質を守る上で最大の武器になります。
体力に自信がなくても大丈夫!高齢者の負担軽減
日本の農業が抱える最大の課題は、従事者の高齢化です。真夏の炎天下での防除作業は、健康な若者であっても熱中症のリスクがあるほど過酷なものです。ドローンなら、木陰や風通しの良い場所からプロポ(送信機)を操作するだけで済みます。最近の機種は自動飛行機能も充実しており、高度な技術がなくても安定した飛行が可能です。重い機材を担ぐ必要がなく、身体への負担が劇的に減るため「体がきつくて廃業を考えていたけれど、ドローンのおかげで続けられそうだ」という声も多く聞かれます。
失敗しないために!導入前に知っておくべき「免許と法律」
ドローンは非常に便利な道具ですが、一歩間違えれば事故につながる恐れもあります。そのため、導入にあたっては正しい知識と準備が必要です。安心してドローンを活用し始めるための、3つのステップを確認しておきましょう。意外と知らない「免許」のホントのところ
まず気になるのが「免許が必要かどうか」という点です。結論からいうと、現在の日本の法律では、農業用ドローンを操縦するために必須となる「免許」というものはありません。つまり、理論上は誰でも購入して飛ばすことは可能です。ただし、免許は不要でも「ルール」は厳格です。ドローンは「航空法」という法律の対象であり、住宅地や目視できない範囲、夜間の飛行などには事前に国土交通省への申請と許可が必要です。また、農薬を空からまく行為自体にも細かい規定があります。「免許がないから勝手にしていい」わけではないことを、しっかり理解しておきましょう。
ドローンスクールに通うメリットは大きい
自分で独学して飛ばすことも可能ですが、多くの農家の方は「ドローンスクール」を受講しています。その理由は、安全への配慮はもちろん、事務手続きが楽になるからです。スクールで民間資格(技能認定)を取得すると、国土交通省への飛行許可申請を行う際に、手続きの一部を簡略化できるという大きなメリットがあります。また、何よりプロの講師から「万が一トラブルが起きた時の対処法」や「農薬の混ぜ方・散布のコツ」などを直接教わることができるため、高価な機体を壊したり、周囲に迷惑をかけたりするリスクを大幅に下げることができます。
「自分で買う」か「プロに頼む」かの見極め
農業用ドローンは、本体やバッテリー一式を揃えると200万円〜300万円ほどの初期費用がかかります。これは決して安い買い物ではありません。そのため「自分で導入するか、それとも業者に委託するか」を冷静に判断することが重要です。作付け面積が広く、一シーズンに何度も散布を行うのであれば、数年で元が取れる自前導入がおすすめです。一方で、面積がそれほど広くない場合や、機械のメンテナンスが不安な場合は、ドローン防除を専門に行う業者に依頼した方が、結果的にコストを抑えられることもあります。まずは自分の農場の規模や予算に合わせて、無理のない形からスタートしましょう。